『透き間』愛知公演アフタートークレポート
サファリ・P『透き間』愛知公演(主催:公益財団法人メニコン芸術文化記念財団)終演後、ジャーナリストの金平茂紀さんと山口茜とのアフタートークが開催されました。2022年3月、サファリ・P第8回公演『透き間』へもご来場いただいた金平さんとの盛りだくさんなやりとりの中から、一部を抜粋してレポートします。
『透き間』の背景に漂っている空気
金平:
僕が昨年の『透き間』を観たのが、ちょうどウクライナの取材から戻ってきた直後だったんです。戦争をやっている国から戻ってきたので、その緊張感と舞台上で展開されていることが地続きなんですね。取材現場のリアルな現実を見て感じた気持ちと、舞台の上で展開されていることから受ける気持ちが同じじゃないか、みたいな。それで当時ものすごく衝撃を受けてね。
おそらく『透き間』の背景に漂っている空気は、今ウクライナで起きてる戦争なんだと思いますね。あそこでは、人を殺しても罪に問われないみたいなことがずっと続いていて、誰もが「戦争だから」と諦めてるような状態で、これは本当に恐ろしい。でも舞台の上でいくつも人殺しが起きると、やはり見てて心が痛む。
山口:
結局、戦争というのは、私たちには関係のないものであって、非常に関係のあるものであるということが作っていて分かってきました。つまり、私が何かを書けば必ず、自分の個性ではなくて、自分の潜在意識とご覧になる方の潜在意識が繋がるので、わざわざ改めて「戦争」を持ち込まなくても、それが出るな、という確信があったんですね。そこで今回は、シンプルにイスマイル・カダレの『砕かれた四月』という小説だけに向き合って一から創作をしたことで、前作とは全く別作品になったんです。
演劇が、真剣勝負をしてくれている
金平:
なんで僕はこんなに演劇に惹かれるのかっていうと、心のバランスみたいなものを演劇に求めている。取材現場でくたくたになったり、ものすごく興奮したり、あるいは本当に疲れ切った時に、演技とか歌とか生演奏とか、そういうものを観たいっていう衝動が湧いてくるんですよ。その中でも特に、演劇を観たいという気持ちになる。アバンギャルドなものから、こまつ座のような庶民的なもの、スタンダップコメディーや海外の翻訳劇まで、全くジャンルを問わずに観るんです。
山口さんたちの作品を観るとね、衝撃を受けるんですけど、本当に観てよかったと思うんです。演劇が、真剣勝負をしてくれていると感じる。そして、観客である自分もそこに対して真剣に観たいと思う。解釈や答えを求めて観るのではなくて、その時に自分が感じた本当に素直な気持ちが、ものすごく大事。分からなかったら分からなかった、あるいは難解だった、ということも含めて、場に立ち会うということが良いと思っているんです。
人がそれぞれ自分の孤独を引き受けていく
山口:
他者の発言とか行動とかをコントロールしたくなる心って、全ての人が持ってると思うんですね。それって親子間でもあるし、会社とか友達同士、患者さんと病院の看護師さんとか、いろいろな関係の中でコントロールが起きるんですけど。おそらく戦争というのはその進化系で、「お前は俺の国の言う通りにしろ」ということが出てくるから戦争になってしまうんですけど。
「相手に任せる」っていう信頼関係みたいなものって、心の中に自分で独立をちゃんと持つことで達成できると思うんです。互いに自分が信頼されているという確信を持ち、自分と他者との棲み分けをすることで、それぞれ自分の孤独を引き受けていく。人にのっとられて、人の意見を言って安心するんじゃなくて、自分で自分の意見を言う。
でもそれってすごい寂しくて、怖くて、隙間風が吹き荒ぶんですね。空っぽで誰もいないので。その孤独に一人一人が耐えていくことで、殺し合いにつながるような、相手をコントロールする行動から少しずつ遠ざかっていけるのではないかと思うんです。私も人をコントロールしたくなっちゃうところがあるので、ずっとテーマなんですね。
信頼関係がお互いにあることで、稽古は成り立っている
山口:
演劇って、いつ誰がどのタイミングで出てくるか、全部決まってるんですよ。これを実現するためにはかなりの稽古量が必要なんですけど。そのためには往々にして、今までの演劇界っていうのは、演出家が怒ってやらせる、緊張感を持ってやらせる、ちょっとでも間違えたら灰皿投げる。それが普通だったんです。でも私の現場では絶対それをしない。当然ですけど。
私が無理やり何かをさせるってことは一切なくて、皆さんとどうやって一緒に対等に意見を言い合って、アイデアを出し合ってやっていくかっていうことをやっていました。だから耐えられない人もいっぱい出てくるんですよね。「こんなことしてて間に合うのかな…」って思う方もすごく多いと思うんですけど。「根本的にあなたのことを信頼してますから、あなたのことはあなたでやってくださいね」っていう信頼関係がお互いにあることで、今回の稽古は成り立っているんです。