やってみる演劇【俳優編】現場レポート③

 第三回(10月6日)もやっぱり雨。家を出るときは曇りだったので「何とかなるか?」とバイクで茨木へ。ところが大山崎あたりからサラサラと降り始めた雨は止むどころか、高槻あたりで本降りとなり、「まあ言うてもすぐ止むやろ?」と合羽を着る判断が遅れた私はブラが透けるほどビショ濡れになった。もちろんブラはつけていない。講師がビショビショで現れたらみなさん不安になるに違いないので、誰もいない多目的ホールで服と髪を乾かすべく訳の分からないダンスを踊り狂った私を誰も知らない。

 今回のウォーミングアップで印象的だったのは「名前鬼」。これも私はよくやるのだけど、こんなに盛り上がったのは初めてじゃないかな? 二組に分かれて、一組は円を作り、もう一組がその円の中で名前鬼をする。鬼に触れられそうになったら人の名前を呼ぶ。するとその人が鬼になる。それを私はスローモーションでやるので、この円の囲いが重要になる。どこまでも逃げていけないように。
 何がそんなに盛り上がったかと言うと、びっくりするほどうまくいかなかったのだ。「えっ!?」って話なんだけど、このうまくいかないことがみなさんの思考と好奇心と探究心に火をつけたようだ。原因を究明する人、なぜこんなことができないのかと笑いが止まらなくなる人が続出する。それでも繰り返すミスに全員の笑いが止まらなくなる。名前を呼べばいいのに恐怖に引きつった顔で逃げ惑う。「名前、名前」と外野から声かけされても「分かってるけど〜!」と言いながら一向に名前を呼ばない。ついに名前を呼んだと思ったら外野で円を作っている人の名前だったり、とスラップスティックが止まらない。「膝が痛いのでこのゲームはおやすみします」と言っておられた方も「やっぱりやります!」と参加の意志を表明された。「なぜこんなにできないのか、自分の身体を通して知っておきたい」と思われたようだ。
 振り返りでは、私が先導するまでもなく意見が飛び交った。スローモーションがキープできないこと、名前が出てこないこと、動きはスローだけど鬼に追われる恐怖の感情はスローにならないのでしっかり取り出せること、名前を呼んでもその人が隣にいてすぐタッチされたこと、逃げながらも誰がどこにいるのか見ておく必要があること、色んな発見を聞かせていただいた。いつも盛り上がるんだけど、ここまで「このゲームをやった意味」みたいなものを実感できたことは初めてだったのでびっくりした。楽しいだけではない何か興奮というか熱というか、そういったものが立ち込めた稀有な体験となった。

 そしていよいよ台本にかかる。お休みが出るかもしれないので人数をどうするか非常に悩んだ挙句、考えても仕方ないので人数分の台本を準備した。5人出演の賃貸住宅斡旋所の話と同じく5人出演のコンビニの話、もう一つは4人出演の待つ人・待たされる人。全て私が過去のワークショップで使うために書いたもので、5分程度のランタイムでそれなりに演劇の楽しさを感じられるものになっている。知らんけど。
 ランダムにチーム分けして、稽古開始。まずは順繰り全ての役を読んでみる。色んな役をやってみて、しかも何回もみんなで読んでみることで作品理解を進め、役の役割を感じていく。その上で誰がどの役を演じるかみなさんに決めていただく。この辺は全部合意形成のワーク。私が決めてお伝えするのが早いし、揉めないけど、そこは時間をかける、敢えて。でもチーム分けやどの台本をやるかはランダムにパッと決める、敢えて。何を合意形成し、何を偶然に委ねるのか、それは何を大切にし、どんなワークにしたいのかで変わってくる。それは都度都度見極めて、決めていかなければならない。

 すごい楽しそうだ。どのチームも笑いと思考がないまぜになったいい集中力で創作が進んでいる。戸惑いもなく、やってみたかったそれを今現にやっているという喜びが溢れ出しているといった風。休憩の声掛けをしても「邪魔しないで」と言わんばかりに創作が続く。配役が決まり、それぞれに委ねられている情報を決めていく。立って稽古するチームも現れた。私は順に回って、決めて欲しい情報や台本の解釈の多様性、役の解釈の多様性をお話しする。みなさんの好奇心はどんどん上がっていく。椅子しかないけど、舞台装置をどうするか、客席を設定した上で決めていってもらう。文字で書かれた平面的な情報が、舞台装置を通して、みなさんの身体・声・解釈を通してどんどん立体化していく。演劇が立ち上がっていく。
 最後は各チームに発表してもらった。稽古もそんなにできていないし、私の手もほとんど入っていない状態だけど素晴らしい発表だった。フリートークなどから丁寧に進めてきたワークが花開いた瞬間。演技経験などなくても、相手に話しかけるという日常の経験から会話が紡がれていく。演技をするというのは記号化ではなくこういうことにしたいんだ、という私の意図が形になった瞬間だった。それぞれに違う台本に挑戦しているので人のを観るのも刺激的で、笑いもたくさん起こり、とても幸せな時間だった。

 次はこれをベースに稽古を重ね、最終発表をする。火がついたみなさんの創作意欲を消さないように、この種火を大切に育てるためのお手伝いをしたい。私自身の役割と存在意義をはっきり自覚できたワークとなった。次の現場へ向かうバイクの上でそんなことを考えていた。

高杉征司